企業はモノやサービスを生み出し、お客様へ届けることで利益を得る組織です。しかし、どんな商品であっても、作るだけで売れるというものではありません。その商品を必要としている人を見つけ、気づかせるひと手間が必要です。これをマーケティングと呼びます。
マーケティングとは売り込みをしないこと
マーケティングとは、顧客、依頼人、パートナー、社会全体にとって価値のある提供物を創造・伝達・配達・交換するための活動であり、一連の制度、そしてプロセスである。
2007年 アメリカマーケティング協会のマーケティングの定義
マーケティングについての書籍では、アメリカマーケティング協会の定義が良く引用されます。ほかにはフィリップコトラーの下記の定義も度々引用されています。
顧客が求める価値を創造し、顧客と強固な関係を築き、その見返りとして顧客から価値を得るプロセス。
フィリップコトラー『マーケティング原理』
日本の経営学書籍においては、ピータードラッカーの、「マーケティングの究極の目的はセリングを不要とすること」という一説を参考にしている書籍が目立つ印象を受けますが、いずれのケースも「相手にとっての価値」へのアプローチを重要視していることで共通しています。
企業が自己本位で物やサービスを生み出すのではなく、顧客の価値をベースとして生み出し、伝え届けることによって対価を得るプロセスがマーケティングです。
シーズ志向とニーズ志向
企業はニーズ志向が重要だという前提は、経営学をあまり学んだことがない学生でも知っていることではないでしょうか。しかし、多くの企業は自社の技術や発送がスタートになってしまっています。これをシーズ志向と呼びます。自社の技術を生かして、とりあえず市場にあるような製品を開発するという状況です。これでは商品はその他の類似品に埋もれてしまい、見向きもされなくなってしまいます。
芳賀康浩『マーケティング論』では、マーケティングの登場を『「販売できるものの生産」というマーケティングの考え方は、それまでの「生産したものの販売」という考え方を180度転換させる画期的な新発想』と評価しました。
売れるものを作る、という発想がマーケティングです。売れるものが何かは顧客のみが知っているため、マーケティングのスタートは必ず顧客ニーズとなるのです。
マーケティング・ミックス
マーケティングには(もはや有名な)4Pがあります。製品(Product)・価格(price)・流通(place)・プロモーション(promotion)です。これらは組み合わせて考えるもので、顧客に対して価値を届けるための枠組みとなります。
この組み合わせによって企業のマーケティングの顔が決まるため、マーケティング戦略との整合性を図ることが重要となります。
誰に何をどうやって?
顧客のニーズがマーケティングのスタートとなることは前述のとおりです。
マーケティングにおける基本の問いは、「誰に何をどうやって」届けるかということです。まずは「誰に」から絞っていくことが必要です。そのためにはまず「誰」の範囲を絞ることから始まります。
セグメンテーション
例えば、車を欲しいユーザーは数多くいます。そのすべてにアプローチするのでは顧客ニーズをくみ取れるとは言えません。スポーツカーが欲しい人もいればワンボックスカーが欲しい人もいます。軽自動車であれば何でもいいかもしれません。
軽自動車の中でも乗り心地が大事な人、多く積み込めることを重視する人、ベンチシートタイプが譲れない人もいれば、安ければ何でもいいという人もいます。
こうした分類はセグメンテーション、市場細分化といいます。セグメンテーションには年齢や地域、使用経験などを基準に分類する手法があります。
ターゲティング
セグメンテーションによって絞り込んだ顧客層に対し、どこを標的顧客にするかがターゲティングになります。セグメントを複数選ぶのか、単一のセグメントにするのか。マーケティングミックスは1つに絞るのか、複数展開するのかなど、決めていくことになります。
誰のどのようなニーズに対してアプローチをするのかを決めることになるため、適切なセグメント、適切なマーケティングミックスが決められていなければ、顧客ニーズに適切にアプローチできないことにつながります。
ポジショニング
セグメンテーション、ターゲティングができたら、次は自社の立ち位置を決めます。セグメンテーションとターゲティングが設定できた段階ではまだ競合他社との差別化ができていません。
ポジショニングは自社の活動領域を決めるものであると同時に、顧客に他社とどこが違うのかを認識させる立ち位置を決めるものでもあります。
セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニングによって、誰に何をどのように届けるのかの戦略を築くことができるようになります。このようにして見ていくと、マーケティングは様々な要素の全体最適が必要ということが分かります。その結果として、顧客が見つけやすい環境が整っていくことになり、企業が売り込む努力を最低限にしながらも売上を高めていくことができるようになるということです。