経営は経営資源の効率的な活用により付加価値を生み出すことで継続的に行われる諸活動、と言えば難しく聞こえますが、簡単にいえば、人・物・金・情報を使って、何を提供して対価を得るのかということです。
伊丹敬之[1989]では、経営資源を「ヒト・モノ・カネといった資源と、技術力や信用・ブランドといった組織能力を総称する言葉」と定義しています。
経営学は、この経営資源を様々な視点から考えていく学問です。人に着目する組織論をはじめ、管理論、財務論、戦略論、マーケティング論など様々な分野に広がります。さらに、バリューチェーン、サプライチェーン、VRIO分析、SWOT分析など、実務でも活用できる手法もすべては経営資源のお話です。
経営資源はヒトモノカネ情報とだけ理解するのではなく、もう一歩踏み込んで、経営資源を獲得するのか、集中するのか、あるいはどう分配するのかという視点でみられるようになると、経営学はより一層面白く見えてくることでしょう。
見えざる資産が企業の優位性につながる
企業は競争をおこなう上で、他社に対して優位性をいかに獲得するかを重要視します。例えば価格で優位性を保とうとすると、値下げ合戦に陥ります。「他社より1円でも高ければ値下げします」のヤマダ電機の例は有名ですが、価格が安いことは企業にとって優位性をもたらします。
詳しくはVRIO分析の解説でおこないますが、重要なことはその優位性が長期的に成立するかということです。先の価格競争は、他社がさらに1円でも値下げすれば失われる優位性ですので、長期的な優位性とは言えません。企業は他社に真似されにくく、換えの効かない優位性を獲得することが重要です。
伊丹敬之[1989]はその例として情報的経営資源を挙げ、目に見えない情報的経営資源「見えざる資産」と表現しました。
見える資産は、見えるからこそ模倣されやすくなります。例えば優れた設備を導入しても、どんな設備か分かってしまえば、投資によって簡単に模倣されてしまいます。
しかし、設備を扱うために、技術者の熟練が必要なケースはどうでしょうか。この場合、たとえ他社が同じ設備を導入したとしても、扱う技術者が育つまでは追いつくことはできません。熟練技術は目に見えないため模倣することも困難というわけです。
見えざる資産の中でも、ヒトの技術や知識については極めて重要な経営資源といえ、長期的な競争優位の源泉となりうるものと表現されます。
外部の経営資源を活用する
経営資源が競争において重要なことを学びました。特に見えざる資産は長期的な優位性を獲得するために重要だと知りました。一方で、企業の経営資源は無限ではありません。ない袖は振れません。規模が小さな企業はお金もなければ人もいません。
そこで重要な考え方が、外部資源の活用です。自社でできないことは他社に任せてしまうのです。どんな会社でも多かれ少なかれ、外部の企業との協力関係によって活動をしています。
製品の素材を作る会社、素材を加工する会社、製品を輸送する会社、製品を販売する会社、顧客サポートをする会社、これらはそれぞれ異なる会社が担当するケースがあります。それぞれ得意なことに集中して取り組むことで、全体で最大の価値を生み出す、ということです。このように、自社が特定の分野のみを担当し、その他の業務を外部委託することを「アウトソーシング」といいます。
また、自社には無いノウハウを持っている人材を採用することで、外部の知識を得ることもできますね。中途採用のメリットですが、これも経営資源の外部活用の一種、外部資源の内部化です。
さらに他の研究機関との共同開発、フランチャイズ、提携や合併、特許技術の実施権など、企業が採用できる外部資源の活用事例は多種多様に存在しています。
経営資源の選択と集中
経営資源は有限です。そのため企業は自社が強みを持つ分野に経営資源を集中させます。ドメインで学んだように、経営資源の拡散を防ぐために、企業は自らの活動領域を規定します。そうすることで、経営資源の効率的な活用ができ、顧客への柔軟な対応が可能になるためです。
経営資源を集中することによって、見えざる資産であるノウハウもまた効率的に蓄積されます。特定の分野において素早くトライアンドエラーを重ねることで、新たな価値の創出につながり、長期的な競争優位性を獲得するに至ります。
企業の規模にかかわらず、こうした経営資源の展開で活路を見出すことになります。経営学で学ぶ多くは経営資源のお話なので、全てをここでお伝えできませんが、「見えざる資産が重要であること」、「外部の資源も活用できること」の2つをしっかり覚えておきましょう。