第3問
以下の会話は、中小企業診断士であるあなたと X 株式会社 (以下「X 社」という。)の代表取締役甲氏との間で行われたものである。X 社は、α の製造販売事業 (以下 「α 事業」という。)を営んでいる。この会話を読んで、下記の設問に答えよ。
甲 氏:「おかげさまで弊社の α 事業は好調です。そこで、業容を拡大したいと考えていたところ、先日ちょうど、取引銀行を通じて、弊社と同じ α 事業 を営んできた Y 社から、事業の選択と集中を進めたいから同事業を買収 しないかという話をもらいまして、現在前向きに検討しています。Y 社 は、α 事業以外の事業も営んでいるので、新設分割で α 事業をいったんり出して子会社 Z 社を設立し、弊社が Y 社から Z 社の全株式を現金で買い取るスキームを考えています。何か注意しておいた方がいいことはあり ますか。」
あなた:「 A 。それから、同業他社から競合する事業を買収することになりますから、独占禁止法に抵触するかどうかも問題になります。少なくとも公正取引委員会への届出の要否については検討しなければなりません。」
甲 氏:「 B 」
あなた:「 C 。いずれにせよ、事業の買収、特に買い手の場合には、大小 様々なリスクを伴いますから、その分野に詳しい専門家からアドバイスを 受けないと後で痛い目を見ますよ。ちょうどいい人を知っていますから紹 介しますよ。」
甲 氏:「ありがとうございます。」
設問1 会話の中の空欄Aに入る記述として、最も不適切なものはどれか。
ア α 事業に関係する債務は、Z 社が承継する債務から除外することはできない ので、α 事業に関係する簿外債務がないかどうかの調査が重要になります
イ Y 社が α 事業に関して締結している契約の中に、会社分割が解除事由として定められているものがないかの確認が重要になります
ウ Z 社において α 事業を営むのに新たに許認可を取得することが必要な場合に は、その許認可を得るのに必要な期間やコストを把握しておく必要があり、そ のコストを X 社が負担するのか Y 社が負担するのか交渉する必要があります
エ 契約の分割等の要否を検討するために、Y 社が、α 事業とそれ以外の事業の 双方で、同一の契約に基づいて使用しているリース資産やシステムがないかど うかの確認が必要になります
X社の代表:最近 α 事業儲かりすぎてやばい。うまい具合に銀行からY社のα事業を買う?って言われたんだよね。Y社は別の商売で食っていくらしいから、それじゃぁα 事業だけZ会社にしてその株をうちが買うってほうが簡単だと思うねんけどどう思う?
あなた:A
という事です。つまり、Y社は α事業 を分社化。 X社はZ社を完全子会社化するだけで、その後X社とY社は関わりがないので吸収分割にはならず、新設分割です。
さて、設問の1を見てみます。
ア α 事業に関係する債務は、Z 社が承継する債務から除外することはできないので、α 事業に関係する簿外債務がないかどうかの調査が重要になります
α事業に関するZ社の債権・債務は、X社がそのまま引き受けます。ただ、α事業の部分だけをZ社にしているので、帳簿外に掲載されている債権・債務が全てですから、その他の心配は無用です。よって調査は必要ありません。
イ Y 社が α 事業に関して締結している契約の中に、会社分割が解除事由として定められているものがないかの確認が重要になります。
例えばα事業の中で「商品A」の日本独占販売権を持っていたとして、その販売許可項目に、「Y社のみがこの販売をすることができる」など書かれている場合、X社になった時に商品Aは販売できません。これは要確認が必要です。
ウ Z 社において α 事業を営むのに新たに許認可を取得することが必要な場合には、その許認可を得るのに必要な期間やコストを把握しておく必要があり、そのコストを X 社が負担するのか Y 社が負担するのか交渉する必要があります
例えばISO認証。分社化され、その後買収されるわけですから、サービス品質などに差が出るため再取得が必要になる場合があります。その場合のコストをどちらが負うのか、事前の取り決めは必要です。
エ 契約の分割等の要否を検討するために、Y 社が、α 事業とそれ以外の事業の双方で、同一の契約に基づいて使用しているリース資産やシステムがないかどうかの確認が必要になります
例えば営業車やコピー機、ウェブサイトや土地建物。当然その後どうするのかも決めなければなりませんし、リース契約を途中破棄する場合の損失をどちらが補填するのか、または引き継ぐのか、確認は必要です。
設問2 会話の中の空欄BとCに入る記述の組み合わせとして、最も適切なものはどれか。
ア B:株式買取りのスケジュールには影響しますか
C:公正取引委員会が短縮を認めてくれない限り、最短でも届出を受理されてから、30 日を経過するまでは、株式を取得することはできないので、スケジュールに影響しますね
イ B:届出を行うのは、X 社ですか。Y 社ですか
C:Y 社です
ウ B:届出を行う前に、公正取引委員会に相談に行くことはできるのですか
C:できません
エ B:どんな規模でも届出が必要になるのですか
C:X 社の企業グループ全体の国内売上高が 10 億円以上の場合で、かつ、 Z 社とその子会社の国内売上高の合計が1億円以上の場合に、届出が必要になります
独占禁止法に抵触する恐れがある場合、買収となる30日前に事前届出をする必要があります。届け出が必要となるにはいくつか要件がありますが、ここでは問われていません。なお、届出は継続して事業を営む者が通常行いますし、事前相談も可能です。
届出については、供給量で見るのが一般的で、供給量では見られない、または価格で見るのが一般的な分野のみ価格で判断されます。
株式を取得しようとする会社及び当該会社の属する企業結合集団に属する当該会社以外の会社等の国内売上高合計額が200億円を超える場合で、株式発行会社及びその子会社の国内売上高の合計額が50億円を超える会社の株式を購入する場合は届出が必要。
ということで、アが正解ですね。