第4問 次の文章を読んで、下記の設問に答えよ。
現代の企業にとって、外部組織との連携の活用は、事業の競争力を構築するための主要な経営課題となっている。ヘンリー・チェスブロウは「企業内部と外部のアイデアを有機的に結合させ、価値を創造すること」をオープン・イノベーションと定義した。技術や市場の変化の激しい経営環境では、経営資源の制約のある中小企業にとっても、新商品開発でのオープン・イノベーションの必要性は小さくない。
オープン・イノベーションにはメリットとデメリットがあり、オープン・イノベーションによる競争力の構築にあたっては、経営者の戦略的な判断が問われる。自動車産業での密接な企業間関係に見られるように、日本企業も企業外部の経営資源の活用に取り組んできた。近年では、大学や公的研究所などの研究組織との共同開発に積極的な取り組みをする企業も増えている。
設問1
文中の下線部の「オープン・イノベーションにはメリット」があることに関する記述として、最も不適切なものはどれか。
ア オープン・イノベーションは、企業外部の経営資源の探索プロセスにおいて、内部での商品開発に対する競争圧力が強くなり、組織の活性化につながる。
イ オープン・イノベーションは、企業内部の優れた人材に限らず、企業外部の優秀な人材と共同で新商品開発を進めればよく、内部での開発コストの低減が期待できる。
ウ オープン・イノベーションは、研究開発から事業化・収益化までのすべてのプロセスを企業内部で行う手法の延長上に位置付けられるが、企業内部の経営資源の見直しに左右されずに進捗する。
エ オープン・イノベーションは、一般的により高い専門性をもつ企業との連携などによって新商品開発プロセスのスピードアップにつながる。
設問2
文中の下線部2にあるように、大学と共同で開発した成果を活用して、新たに起業する場合の問題に関する記述として、最も不適切なものはどれか。
ア 大学教員をパートナーに起業した場合には、営利取得の可能性があるために、当該教員が企業家活動から個人的利益を追求する利益相反を生み出すことがある。
イ 大学教員をパートナーに起業した場合には、大学の知的資源や労力を流用する際に、営利目的のために大学院生や学部学生を利用し、学部教育や大学院教育を弱体化させることがある。
ウ 大学教員をパートナーに起業した場合には、大学の発明に対して排他的な権利を保有したいと要望し、知識の流通を限定して潜在的に価値のある商業技術の普及を遅らせることがある。
エ 大学教員をパートナーに起業した場合には、利益相反の問題は大学やその事務職員の株式保有にかかわりなく、当該教員が研究を行う企業の株式を保有しているかどうかによって生じる。
産学連携
オープンイノベーションで良く使われる言葉に「産学(官)連携」があります。企業がある目的を持つ研究機関に出資し、施設利用や許認可や法整備など行政を巻き込んで新たな技術を開発しようという動きです。
連携する企業が高い技術力を持っていれば、新商品開発も容易になり、開発期間も短縮が見込めます。
医療や再生可能エネルギー、宇宙開発等の分野では特に大学等の研究機関の研究が進んでいる分野であり、企業は1から内部でこれらのノウハウを蓄積するよりも、研究機関と連携して製品開発を行うほうが、コスト面や人材確保面などでメリットを得られます。
企業内部のみの技術に新たな風が吹き込むことから、内部の商品開発が活性化されることが期待できます。また、専門の研究機関との連携を行えば、人材の確保も不要となり、本来かかるはずであった人件費や開発費の大幅な削減が期待できます。
大学教員をパートナーにする場合の問題では、大学教員がその立場を忘れて、または悪用して利益を求めることはできないことの理解度を問われています。利益を得ること自体が悪いということではなく、立場を利用して利益を得ることが不適切であるという考えです。
大学教員が兼業として企業のパートナーとなった場合、正当な対価を得ることは問題ではありませんが、より利益を得ようとするあまり、大学講義を欠席して企業研究を行うなどの行為につながれば、それは利益相反と言えます。
また、企業への協力として、大学教員がこれまでの研究をないがしろにしたり、他の研究を止めさせて企業との協力をする場合においては、大学の先進的な研究を阻害することになり、弱体化に繋がる可能性があります。これは例えば現状商用化されている技術よりも優れた技術の可能性があるにも関わらず、商用化されている技術のブラッシュアップに専念することで、それよりも優れた技術の開発を遅らせてしまうなどのデメリットも起こりえます。
大学教員がパートナーとなって起業された組織の(非)公開株を、この教員が保有することは十分に考えられることであり、大学やその事務職員の株式保有があっても、それ自体が利益相反の問題に直結することではありません。
ただし、その立場でありながら、株価を釣り上げることを目的として、もちうる技術が他に比べて有用であるかのように研究結果を発表するなどした場合には、利益相反であると判断ができます。
設問1:ウ
設問2:エ