ドメインは聞いたことがある言葉ですか?
ウェブサイトを作る人などは馴染みがある言葉ですよね。また、経営学を専攻した人なども、この言葉は最初に出てくるので比較的覚えているかと思います。
経営でのドメインって何?
- ドメイン(domain)とは、領域 のこと
- 組織がどこで勝負をするのかということ
- 企業には企業ドメインがある
- 事業にも事業ドメインがある
- 組織にとってドメインをどう考えるかは大切
ドメインとは領域のこと
まず、ドメインって何?と聞かれたら、「領域というか、範囲のことですよね」と答えるのが正解です。
それまでの話がインターネットのことだとしたら、「URL(アドレス)のことですよね」となります。
またそれまでの話が会社のことだったら「何屋ですよっていうことですよね」が正解です。
ドメインとは、それがどこに属しているのか、ということだと覚えておいてください。
組織がどこで勝負をするのかということ
それがどこに属しているか、というのは何もどの会社の傘下ですか?ということではありません。どこで戦っているのか、ということです。つまり何屋なのか?ということです。
米屋は何を売れる?
ここで少し考えてみましょう。お米屋さんは何を売れるでしょうか。
米屋だからお米は売りますよね。
これは物理的定義と言われます。実際に米を売っているのだから米屋だ、というものです。
ネジを売っていたらネジ屋ですし、寿司を売っていたら寿司屋です。おもちゃだったらおもちゃ屋さんです。映画を見せるなら映画館になります。単純に何を売っているから何屋だということを、小難しく言うと物理的定義と言います。
では、米屋は米以外売れないでしょうか。
米屋、今は馴染みがないかもしれないですね。スーパーで買いますからね。先にスーパーがなぜ米を売るのか考えて見ましょう。
なぜスーパーは米を売るのか
スーパーマーケットは食材と日用品を取り揃えていますよね。スーパーマーケットはそこで全てが揃う「ワンストップショッピング」というコンセプトで展開されています。
では日本中どこにでもあるイオンを見てみましょう。イオンのウェブサイトには次の一文が掲載されています。
「あなたの街に、あなたの街だけのイオンスタイル」
これだけを見ると、その土地ごとに特徴が違うんだろう、と思いますよね。では次の一文を追加してみましょう。
「地域に寄り添い、お客さまの多様なライフスタイルやニーズに合わせた専門性の高いこだわりの商品やサービス、空間を提案する「イオンスタイル」。」
ここではイオンスタイルの説明が行われていますが、その土地土地に応じたニーズをしっかりと汲み取れる展開をしなければならない、と読み取れますよね。
「お客さまの声やニーズをもとに、日々の暮らしを彩る商品をおとどけします。」
ここで一つの仮説が生まれます。地域が必要としないのであれば、イオンは米を売らない選択もありえる、というわけです。つまり、イオンは品揃えを徹底するということ以上に、その土地に必要とされるものを売るという選択をしていることが分かります。
そこに住む人たちが、日々の暮らしの中でお米を求めるのであれば、求められる品質のお米を売る、というのがイオンの答えなようですね。これもドメインです。
どのような価値を顧客に提供できるか、そこからドメインを決めることを機能的定義といいます。
米屋が米以外に売るもの
さて話を戻します。米屋が米以外に売るものの話です。米屋が物理的定義でしたので、機能的定義をどう考えるか、つまり米屋としてどんな価値を届けるかによって品揃えも変わります。
もっと美味しく、ということなら、より美味しくご飯が炊ける炊飯器を売っても良いでしょうし、お店の前でおせんべいやおにぎりを売っても良いかもしれません。ふりかけやおかずを売るところもありますよね。
もっと身近に、ということなら宅配をしてもいいかもしれません。量り売りでも良いかもしれませんね。
もっと豊富に、ということなら、世界中の品種を揃えるのも考えられます。
機能をどこに置くかによって、売るものも売り方も変わるわけです。
企業には企業ドメインがある
米屋や八百屋のような、ひとつの事業しか営んでいない企業ばかりではありません。
会社は複数の事業を営み、複数の収入源を持っています。事業を広げていくことを多角化と言いますが、企業の多くは多角化経営を営んでいます。
ここで、企業自体が、自分たちが何を提供しているのかを設定しないでいると、多角化の方向が定まらず、気づいた頃には一体何がしたい企業なのかがわからないものが誕生します。それをまとめる役割を担うのが、企業ドメインです。
企業ドメインを決めることは、企業の性格を決めることになります。
事業にも事業ドメインがある
さきほどの米屋の例が該当しますが、事業ごとに事業ドメインがあります。
ここで注意したいことは、企業ドメインの枠内に事業ドメインが収まっているか、という点です。企業ドメインが法人に対してのサービス提供を打ち出しているのに、事業ドメインで個人向けサービスの提供をしていては、会社としての足並みが揃いません。
何を事業ドメインにするかは、まず会社が何を提供する組織であるかを把握することが前提になるわけです。
中小企業診断士試験:企業経営理論H29 1問目より
さて、ではここまでの知識で解いてみましょう。
多角化した企業のドメインと事業ポートフォリオの決定に関する記述として、最も適切なものはどれか。という問題です。
ア 多角化した企業の経営者にとって、事業ドメインの決定は、企業の基本的性格を決めてアイデンティティを確立するという問題である。
色々な事業を行う企業の経営者にとって、事業ドメインを決めることは、企業としての基本的な性格を決めて、自分たちは何者なのか、を決めてしまうことですか?
と問われています。上で見たように、企業が自分たちは何屋だと決めるのは、企業ドメインでしたね。したがってこれは不適切です。
イ 多角化した企業の経営者にとって、事業ドメインの決定は、現在の活動領域や製品分野との関連性を示し、将来の企業のあるべき姿や方向性を明示した展開領域を示す。
色々な事業を行う企業の経営者にとって、事業ドメインを決めることは、今どこで活動しているかや、どんな製品を作っているのかということに関連性を持たせて、企業のあるべき姿やこれからどこに進むのかをはっきり決めた範囲を定めることである。
と問われていますが、これも、企業ドメインと事業ドメインの違いについて問われたもので、企業のあるべき姿やこれからを定めるのは企業ドメインなので、不適切になります。
ウ 多角化した事業間の関連性を考える経営者にとって、企業ドメインの決定は、多角化の広がりの程度と個別事業の競争力とを決める問題である。
色々な事業を行う、または行おうとする経営者がその関連性を考えるとき、企業ドメインを決めることは、どこまで事業を広げるかや、それぞれの事業の競争力を決める問題である。
と問われています。それぞれの事業の競争力を決めるのは事業ドメインですから、これは不適切となります。
エ 多角化した事業間の関連性を考える経営者にとって、事業ドメインの決定は、全社戦略の策定と企業アイデンティティ確立のための指針として、外部の多様な利害関係者との間のさまざまな相互作用を規定する。
色々な事業を行う、または行おうとする経営者がその関連性を考えるとき、事業ドメインを決めることは、全社戦略を決めることと、企業が何屋なのかを確定するための指針として、企業の外部の利害関係者との間で様々な相互作用をつくりだす。
と問われています。全社の戦略を決めたり、企業が何屋なのかを決めるのは企業ドメインの話ですから、不適切になります。
オ 多角化を一層進めようとする経営者は、事業間の関連性パターンが集約型の場合、範囲の経済を重視した資源の有効利用を考える。
もっと多くの事業を手掛けようとするとき、事業同士の関連が強い場合、範囲の経済を重視した資源の有効利用を考える。
と問われています。新しく事業を始めようとするときには、全く違う分野を開拓するのではなく、利用できる経営資源があればそれを有効活用し収益性を高める方法が有効になります。