平成29年経営法務

ストックオプションの行使に関する問題 | 経営法務H29-3

第3問 以下の会話は、中小企業診断士であるあなたと、上場を目指しているベンチャー企業であるX株式会社(以下「X社」という。)の代表取締役甲氏との間で行われたも のである。この会話を読んで、下記の設問に答えよ。なお、X社の定款には特段の定めがないものとする。

甲 氏
甲 氏
優秀な人材が会社に定着してくれなくて困っています。何かよい方法はないですか。
あなた
あなた
御社は上場を目指していましたよね。ストック・オプションを従業員に発行するのはどうでしょうか。
甲 氏
甲 氏
どういうことですか。
あなた
あなた
会社法では、新株予約権と呼ばれているものなのですが、会社に対して行使することにより株式の交付を受けることができる権利のことをいいます。
甲 氏
甲 氏
それをどう使うのですか。
あなた
あなた
まず、言葉の意味について説明しますね。新株予約権の付与を受けた時点で付与を受けた者が会社に払う金額を払込金額といい、その後新株予約権を行使して株式の交付を受ける時点で新株予約権者が会社に払う金額を行使価額といいます。また、新株予約権者が新株予約権を行使できる期間を行使期間といい、新株予約権者が新株予約権を行使する際に満たしていなければならない条件を行使条件といいます。
甲 氏
甲 氏
それで?
あなた
あなた
そこで、例えば、新株予約権の内容を
・【 A 】を無償とすること
・【 B 】について、現在のX社の株価と一致させるか、又は現在のX社の株価より【 C 】すること
・行使期間を、新株予約権の付与を受けた日後2年経過した日以降とすること
・新株予約権行使時までX社の役員又は従業員の地位を維持していること
を行使条件とすることにすれば、御社の業績を今よりも向上させようという気持ちを従業員に持たせることができると思います。
甲 氏
甲 氏
なるほど、その仕組みなら少なくとも2年間は定着して頑張ってくれそうですね。従業員にストック・オプションを付与するに当たって注意しなければならないことはありますか。
あなた
あなた
【 D 】。専門家の協力を得ないまま、ストック・オプションを発行することは難しいと思います。詳しい方を紹介しますから、一緒に相談に行ってみませんか。
甲 氏
甲 氏
ぜひお願いします

設問1 会話の中の空欄A〜Cに入る語句の組み合わせとして、最も適切なものはどれか。
ア A:行使価額 B:払込金額 C:高く
イ A:行使価額 B:払込金額 C:安く
ウ A:払込金額 B:行使価額 C:高く
エ A:払込金額 B:行使価額 C:安く

設問2 会話の中の空欄Dに入る記述として、最も適切なものはどれか。
ア 株価が値下がりした場合のリスクを従業員に負わせることになります

イ 株主総会において、議決権を行使することができる株主の半数以上であって、当該株主の議決権の3分の2以上に当たる多数をもって、募集事項を決定する必要があります

ウ 従業員だけでなく、社外のコンサルタント等にもストック・オプションの取得を勧誘する場合には、有価証券届出書の提出が義務付けられることがあります

エ 租税特別措置法に定める要件を満たしていない場合、株式売却時に売却価格と行使価額の差額部分について譲渡所得として課税されてしまいます

ストックオプション

ストックオプションは権利を与えられた人が、割安な行使価格において株式を購入することができるというもの。会社の株価が継続して値上がりしている時であれば、インセンティブ(動機付け)として有効な手段となります。

将来的に行使できる価格以上に株価が上がれば、その分の利益を得られることにも繋がるので、現在の株価より高く設定しておき、数年以内にそれを経営努力によって超えることができるならば、賞与と同じ効果が期待されることから、従業員のやる気の向上につながると期待できます。

税制適格か非適格か、それが問題だ

ストックオプションについては一定の要件を満たせば税制面での優遇を受けられます。言い換えれば、税制面での優遇を受けられない場合、相当なリスクを追うことがあります。

ストックオプションはまとまった金額を得ることができる福利厚生の一つです。そのため本来であればそれに対応する税金がかかります。ただし、一般の従業員も受け取ることが出来るのですが、所得水準を考慮すると負担になる可能性があることから、下記の要点を満たせば、税制面での優遇が受けられるものです。

税制適格となる対象者

・対象は自社の取締役と使用人
・企業の成長に必要不可欠な知識や技能を有している者
・企業の成長の目標に合致している者
・大口株主では無い者

税制適格となる要件

・権利行使日が付与決定から2年超、10年以内であるとき
・権利行使価格が年1200万円以下であるとき
・譲渡制限株式であるとき
・無償発行であるとき
・契約締結時株価が権利付与決定時の時価以上であるとき

税制適格による恩恵

以上を満たし税制適格と認められる場合、株式売却までの課税が免除されます。株式売却時点では譲渡課税として約20%の課税が行われます。

非適格の場合の損失

税制非適格となった場合は、権利行使時点において給与所得による累進課税が発生し、売却時点において譲渡課税が発生します。

また、給与所得の累進課税によって発生する源泉徴収については企業から現金支給されるわけではないため、ストックオプション行使対象者が企業に別途払い込むのが一般的となっています。

ストックオプションは新株予約権方式

ストックオプションは新株予約権方式を利用した制度です。新株予約権を発行する場合は、その募集人数が6か月間で延べ50人を超える場合は有価証券報告書の提出が必要となりますが、従業員はこの募集人数に含めません。

またあらかじめ発行数を定款に定めておけば、都度株主総会で決議する必要もありません。

かなり専門的知識を問われる部分ではありますが、設問1、設問2ともにウが正解となります。