平成29年経営法務

会社経営者の遺留分相続について | 経営法務H29-5

第5問 中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律に定められた遺留分に関する民法の特例に関する記述として、最も適切なものはどれか。

ア 旧代表者の推定相続人が除外合意や固定合意の当事者となった場合において、当該推定相続人の代襲者には、除外合意や固定合意の効力は及ばない。

イ 旧代表者の推定相続人でない者は、除外合意や固定合意の当事者となることはできない。

ウ 旧代表者の推定相続人の中に除外合意や固定合意の当事者となっていない者がいても、これらの合意は有効に成立する。

エ 除外合意や固定合意の当事者の代襲者が旧代表者の養子となった場合には、除外合意や固定合意は効力を失う。

会社経営者の遺留分相続について

まず法定相続分と遺留分の違いについて理解しておかなければなりません。

法定相続分は遺言が無い場合に認められる相続分で、
配偶者2分の1-直系卑属2分の1、
配偶者3分の2-直系尊属3分の1、
配偶者4分の3-兄弟姉妹4分の1、
の割合で法律上相続することができます。

しかし遺言がある場合にはこれを変更することができます。それが遺留分です。
配偶者のみの場合 2分の1
直系卑属のみの場合 2分の1を按分
直系尊属のみの場合 3分の1を按分
兄弟姉妹は無し

除外合意と固定合意

経営者が後継者対策として株式を生前贈与していた場合など、経営者が死亡したのちの相続において、遺留分から生前贈与分を除外することを除外合意、生前贈与された株も含めることを固定合意と呼びます。なお固定合意において値上がりした株価分は、後継者の経営努力によるものと推定されるため遺留分算定基礎財産には含まれません。

除外合意も固定合意も、遺留分の財産分与の1つの方法であるため、代襲者であっても相続を受けることが可能です。また、「経営承継円滑化法」の改正によって、円滑な事業承継が出来るようにするため、親族ではない者にも生前贈与における除外合意や固定合意を認めるものと決定されたため、第三者への株式の相続であっても、その取り分について保護されることになりました。

「「当事者」の下に「(旧代表者の推定相続人でない後継者を除く。)」を加える。」

なお、この特例には推定相続人(この特例では遺留分のない兄弟姉妹を除きます)全員の書面による合意が必要とされているほか、3年以上継続して事業を行っている中小企業かつ非上場企業であり、株式譲渡前の後継者の持ち株割合が50%以下であることなど厳しい要件が定められています。

なお、除外合意と固定合意は二者択一ではなく併用することが可能です。

さて、特例に関して、子が亡くなりその代襲者として孫が旧代表者の養子となった場合、子としての立場と代襲者としての立場が重複してしまいます。また子としての合意が出来なくなる事から全員の書面に欠けが生じ、結果として合意は認められないことになります。

よってエが正解になります。

経営承継円滑化法
第十条 第八条第一項に規定する合意は、次に掲げる事由が生じたときは、その効力を失う。
一 第七条第一項の確認が取り消されたこと。
二 旧代表者の生存中に後継者が死亡し、又は後見開始若しくは保佐開始の審判を受けたこと。
三 当該合意の当事者(旧代表者の推定相続人でない後継者を除く。)以外の者が新たに旧代表者の推定相続人となったこと。
四 当該合意の当事者の代襲者が旧代表者の養子となったこと。