平成28年経済学

IS曲線LM曲線の理解度を試す問題 | 経済H28-11

第11問
財政・金融政策の効果を理解するためには、IS-LM 分析が便利である。IS 曲線 と LM 曲線が下図のように描かれている。下記の設問に答えよ。

設問1
IS 曲線と LM 曲線の傾きに関する説明として、最も適切なものはどれか。

ア IS 曲線は、限界消費性向が大きいほど、より緩やかに描かれる。

イ LM 曲線は、貨幣の利子弾力性が小さいほど、より緩やかに描かれる。

ウ 利子率が高くなるほど貨幣需要が拡大すると考えており、したがって LM曲線は右上がりとなる。

エ 利子率が高くなるほど投資需要が拡大すると考えており、したがって IS 曲線は右下がりとなる。

設問2
IS 曲線を IS から IS′ へとシフトさせる要因として、最も適切なものはどれか。

ア 外国人観光客の増加による消費の増加

イ 歳出削減による財政健全化

ウ 量的緩和策によるマネタリーベースの増加

エ 老後の生活に備えるための貯蓄の増加

IS-LM分析とは何か?

IS-LM分析は、財市場と貨幣市場は同時に均衡することを表します。

IS曲線が財市場、LM曲線が貨幣市場をそれぞれ表しています。

IS曲線とLM曲線を同時に理解していなければ、なかなか頭に入るところでもないので、それぞれ簡単にみていきましょう。

IS曲線は財市場

利子率が上がると国民所得が減ります。
利子率が下がると国民所得が増えます。

イメージとして分かりやすく言えば、返済する利息が高いと、返すお金が増えるので、手元に残るお金は減りますね。お金を借りる時には、できるだけ金利の安いところを探しますが、それは手元に残るお金が増えるからですね。

さて、財市場ですから、需要と供給が存在します。国の総需要はGDPでしたね。需要がある分だけ生産されますから。生産面から見たGDPと、所得の面から見たGDPは三面等価なので等しかったですね。それをグラフにしたら45度線になりました。

45度線分析で、総需要=所得=C+I+Gで決まりましたね。

さて、投資は通常銀行からお金を借りて行うことが多いのですが、ここで利子率が上がるとI(投資)が減るから所得が減る、という式のイメージは大丈夫でしょうか。

I=投資
S=貯蓄
なので、Sについても見ていきましょう。

貯蓄というものは、所得から消費を引いた残りですね。給料をもらい、生活費を引いた残りを貯蓄しますから。

S=Y-C

が成立します。

ここで、海外も政府も考えないシンプルな財市場を見てみると、

総需要=所得Y=C+I が成立します。(Gがなくなる)

そのため、

S=Y-C に、Y=C+I を代入すると、

S=C+I-C となります。よって、

S=I が成り立ちますね。

これは貯蓄と投資は同額ですよ、ということを意味します。投資は利子率が上がれば控えられ、所得が減ります。投資と貯蓄が均衡していれば、投資が減れば所得が減り貯蓄も減るよね、ということになります。

そのため、縦軸利子率(r)、横軸所得(Y)とすると、通常は右下がり曲線になります。なお、利子率がそのままで所得が増加・減少する横シフトが発生するのは、Y=C+I+G+NX(NX=純輸出)のいずれかが増減した場合に起こるので、設問から判断していけば大丈夫です。

なお、利子率が下がりにくい=利子弾力性が高いほど水平に近い曲線になります。

ボリュームがありますが、次にLM曲線を見ていきましょう。

LM曲線は貨幣市場

貨幣は必要な分だけ市場に出回ります。

需要が上がると、取引されるために必要な貨幣の量が増えますね。

全体的な貨幣需要量L = 取引需要L1 + 投機的需要L2

取引需要は、何かを購入するために貨幣として持っておくもの。
投機的需要は、債権などの貨幣以外の資産として持っておくもの。

取引需要は所得が増加すれば増えるのでL1(Y)と所得の関数になります。
投機的需要は利子率が金利によって変動するのでL2(r)とします。

L=L1(Y)+L2(r)という式になります。

ここで貨幣需要量 L は一定とします。すると、L1(Y)が増加すればL2(r)が減少しなければなりません。

今所得が増加しました。L1(Y)が増加し、全体の貨幣需要が増加したとします。しかし市場の貨幣需要の量は一定ですから、貨幣需要量を一定に保つには、L2(r)が減少しなければなりません。

L1(Y)が増加して貨幣が足りない状態を超過需要といいます。そこで債権利子率を上げてこの超過需要分を吸収しようとするわけです。上昇した利子率がある程度まで需要を満たすと、投機的需要が少なくなりますから、結果的に貨幣需要は保たれる、またLM曲線が右上がりになる、ということです。

また、LM曲線の左右シフトする要因は、実質貨幣供給量(名目貨幣供給量/物価)の増減によるもので、マネタリーベースの増減が主な要因となります。

問題をとこう

ア・限界消費性向はC=c(Y-T)+Coの小文字のc、可処分所得のうち消費に回す割合のことでしたね。利子率が同じであっても、消費に回す金額が多ければ、需要が高まり供給が生まれ、所得が増加することを意味します。その場合同じ利子率でも所得が増えるので緩やかな曲線で描かれます。

イ・LM曲線は貨幣の利子弾力性が高ければ緩やかになります。

ウ・利子率が高くなるほど投機的需要は縮小することとなります。

エ・利子率が高くなるほど投資需要は縮小することになります。

よってアが正解です。

IS 曲線を IS から IS′ へとシフトさせる要因として、最も適切なものはどれか。

ア 外国人観光客の増加による消費の増加・・・消費の増加となるため右シフトする。正解。

イ 歳出削減による財政健全化・・・政府支出の減少なので左シフトする。不正解。

ウ 量的緩和策によるマネタリーベースの増加・・・LM曲線に関する部分。不正解。

エ 老後の生活に備えるための貯蓄の増加・・・消費の減少となるため左シフト。不正解。