平成29年経済学

IS-LM分析についての基本・応用問題 | 経済H29-9

第9問
下図は、IS 曲線と LM 曲線を描いている。この図に基づいて、下記の設問に答えよ。

設問1
IS 曲線、LM 曲線は、それぞれ生産物市場と貨幣市場を均衡させる GDP と利子率の関係を表している。下記の記述のうち、最も適切なものはどれか。

ア Iの領域では、生産物市場が超過需要であり、貨幣市場が超過供給である。
イ IIの領域では、生産物市場と貨幣市場がともに超過供給である。
ウ IIIの領域では、生産物市場と貨幣市場がともに超過需要である。
エ IVの領域では、生産物市場が超過供給であり、貨幣市場が超過需要である。

設問2
公債の資産効果を IS-LM 分析によって考察する。下記の記述のうち、最も適切なものはどれか。
ア 資産効果は、家計の消費支出を刺激することで、IS 曲線を左方にシフトさせる。
イ 資産効果は、必ず GDP を増加させる。
ウ 資産効果は、必ず利子率を上昇させる。
エ 資産効果は、貨幣需要を増加させることで、LM 曲線を右方にシフトさせる。

IS-LM分析

財市場と貨幣市場の同時均衡を示すIS-LM分析。設問1については、財市場と貨幣市場のそれぞれの線の上下がどういう状態かを丁寧に見ていけば難しくない問題です。

IS曲線の上と下

IS曲線は、利子率が上がれば投資が抑制されて所得が減少し、利子率が下がれば投資が促進されて所得が増加することを表しています。

それでは、IS曲線上のどこでも良いので、点を1つ打ってみましょう。そこから下にまっすぐ下ろした適当な位置に点を打ちます。これで、IS曲線で均衡していた財市場から、金利がいきなり下がった状態が示されました。金利が下がったわけですから、まっすぐ下ろした点の位置から、まっすぐ右側に伸ばしてIS曲線にぶつかる部分まで投資され、所得が増加しますね。つまり、IS曲線の下の位置は、財市場が超過需要の状態だと言えますね。

LM曲線の上と下

LM曲線は、利子率が上がれば債券利子が増えるので所得が増加し、利子率が下がれば債券利子が減るので所得が減少します。

同じようにLM曲線の任意の位置に点を打ちます。そこから右にまっすぐ伸ばしたところに点を打ってみましょう。いま、最初の点の位置から、右に伸ばした位置までの幅で所得が増加しました。L=L1+L2 貨幣需要=取引需要+投機的需要であったように、取引需要が、右に伸ばした位置までの幅分増加したので、その分だけ投機的需要にお金が流れます。投機的需要にお金が流れると、今度は上に伸ばしてLM曲線と均衡するまで投資されていきます。均衡する時には投機的需要は十分に減少したとみなすことができるわけです(それ以上投資する魅力がない)

つまり、LM曲線の下は投資される超過需要の状態と言えます。

以上のそれぞれの分野を考慮した場合、IIにあるように、両市場ともに超過供給だとするイが正しいとわかりますね。

資産効果とは何か?

選択肢イとウを見極めるために「資産効果」の理解が不可欠だとわかりました。資産効果は、所得が同じ場合であっても、保有する資産が多いほど消費に対してポジティブであるというものです。年収400万円であっても、貯蓄がなければ貯蓄しますが、貯蓄が1億円あれば貯蓄せずに使う額は多くなる、という理解ができれば十分です。

では公債の資産効果についてはどう考えるのか、ということですが、現預金以外の金融資産が増加した場合どう動くかということになります。

IS曲線で見ると、投資や消費が刺激されると考えられますから、IS曲線は右側へシフトすることになります。

LM曲線で見ると、公債の発行によって市中の資金が減ります。マネタリーベース自体が減少するのでLM曲線は左側へシフトします。

また、IS-LM分析とは、財市場と貨幣市場の同時均衡を示すものですが、これはすなわちGDPの同時均衡(同時決定)を示すものなので、IS曲線とLM曲線のシフトの仕方によってはGDPが変わらない場合も起こるようです。

ただし、公債が増加することで投機的需要は一時的にでもこれを減少させなければならなくなる上、公債の購入によって投資が増加することからも、公債の資産効果については金利を上昇させることは絶対に起こると言えます。

IS曲線-LM曲線のシフトについて

IS曲線は、Y=C+I+G+(EX-IX)のいずれかが増減した場合にシフトします。

LM曲線は、L=L1+L2、貨幣需要(=貨幣供給)=取引需要+投機的需要 でした。基本的にはマネタリーベースの増減などでシフトするとされています。