ビジネス書レビュー

データ・ドリブン・マーケティング 著:マーク=ジェフリー

データドリブンマーケティング

副題「最低限知っておくべき15の指標」、

帯には「ジェフベゾスが愛読!世界最強のマーケティング企業 アマゾン社員の教科書」とあります。

表紙を開いて序文には「ジェフベゾスが選ぶビジネス書12タイトルのうちの1冊」と、購入を迷わせないキャッチコピーが立て続けに目に入ります。

2017年に発売されたタイトルながら、確かに内容が充実している事もあって、2019年2月1日現在でも、アマゾンランキングは下記の高順位を保っています。

6位 ─ 本 > ビジネス・経済 > 経営戦略
11位 ─ 本 > ビジネス・経済 > 実践経営・リーダーシップ > 経営理論
17位 ─ 本 > ビジネス・経済 > マーケティング・セールス > 一般

マーケティングのケーススタディ

マイクロソフトやテラデータ、ダウ・ケミカルやデュポンもクライアントにもつコンサルタント業の傍ら、ノースウェスタン大学ケロッグ大学院で教鞭をとる。

現在はAquimo創設者兼CEOとしても活動しているマークジェフリーによる著書の翻訳版。

一言でいえば、マーケティングの理想と現実に向き合ったケーススタディ本です。

豊富な事例はもちろんですが、コンサルタントだからこそ立ち会えた、実際の現場のマーケティングの課題が豊富に掲載されています。多くはアメリカ企業ですが、サントリーやコカ・コーラ、トヨタなど日本人にとってもなじみのある企業の事例も所々にちりばめられています。

出版社は「グロービズMBAシリーズ」「ハーバードビジネスレビュー」も手掛けているダイヤモンド社。

目次

日本版への序文

はじめに

第Ⅰ部 データ・ドリブン・マーケティングのアウトライン

第1章 マーケティング格差

なぜ、データ・ドリブン・マーケティングは難しいのか
マーケティング格差はどこから生まれるか
15の重要なマーケティング指標
事例
上位企業と下位企業におけるマーケティング予算上の大きな違い
マーケティング指標の活用により多難な時代を乗り越えよ
はじめの一歩 データ・ドリブン・マーケティング戦略を策定する

第2章 何から始めるべきか?

データに基づく意思決定を妨げる5つの障壁
第1の障壁を乗り越える:どう始めてよいのかわからない障壁 簡単なデータから始めて、クイック・ウィンを作る
第2の障壁を乗り越える:因果関係不明の障壁 小さな実験を通じて因果関係を検証する
第3の障壁を乗り越える:データ不足の障壁 顧客データを収集する戦略を立てる
第4の障壁を乗り越える:ITリソース、ツール、投資の障壁 データ・ドリブン・マーケティングのインフラを構築する
第5の障壁を乗り越える:組織と人の障壁 データ・ドリブン・マーケティングを企業文化に埋め込む

第3章 10の伝統的なマーケティング指標

マーケティング効果測定という難題
マーケティング活動に合った評価指標を選択せよ
認知向上マーケティング
比較検討・評価マーケティング
ロイヤルティ・マーケティング
マーケティングの黄金指標:顧客満足度
マーケティング運用上の最重要指標
需要喚起型(トライアル)マーケティング
マーケティングのバランス・スコアカード
B2B企業が直面する測定の課題とその解決法

第Ⅱ部 マーケティングの成果を劇的に向上させる15の指標

第4章 5つの重要な非財務系指標

ブランドイメージの形成 重要指標 ① ブランド認知率
消費財企業におけるブランド・マーケティング
B2B企業におけるブランド・マーケティング
比較マーケティング 重要指標 ② 試乗(お試し)
ロイヤルティ・マーケティング 重要指標 ③ 解約(離反)率
顧客満足度 重要指標 ④ CSAT
キャンペーンの運用効率評価 重要指標 ⑤ オファー応諾率

第5章 投資リターンを示せ!

財務系指標で語れなければ、経営陣の信頼は得られない
重要指標 ⑥ 利益
マーケティング担当者向けの財務系指標 重要指標 ⑦ 正味現在価値(NPV)、⑧ 内部収益率(IRR)、⑨ 投資回収期間
マネジメント意思決定のためのマーケティング投資収益率のフレームワーク
スポーツ・スポンサーシップにおけるマーケティング投資収益率(ROMI)
新製品発売時におけるマーケティング投資収益率(ROMI)
ROMI重要指標の計算 ⑦ 正味現在価値(NPV)、⑧ 内部収益率(IRR)、⑨ 投資回収期間
数字のストレステスト:感度分析

第6章 すべての顧客は等しく重要……ではない

重要性の高い顧客は、重要視されているか
重要指標 ⑩「顧客生涯価値」の定義
新たなマーケティング戦略の潮流 顧客価値ベースのマーケティング
短期と長期での顧客収益性のバランス
顧客ライフサイクル・マネジメント

第7章 クリックからバリューへ

インターネット・マーケター必須の5指標
CPC対CPM 重要指標 ⑪ クリック単価(CPC)はグーグル最大のイノベーション
リスティング広告を最適化する 重要指標 ⑫トランザクションコンバージョン率(TCR)、⑬ 広告費用対効果(ROAS)
ウェブサイトの出来を評価する 重要指標 ⑭ 直帰率
アトリビューション分析でリスティング広告を進化させる
リスティング広告を超えて ディスプレイ広告のインパクト
ソーシャルメディアにおけるハイパーターゲティング・ディスプレイ広告
重要指標 ⑮ 口コミ増幅係数(WOM)でソーシャルメディア・マーケティングの有効度を測定する

第Ⅲ部 データ・ドリブン・マーケティング 上級編

第8章 アジャイル・マーケティング

成否を判定するデータがないために「失敗しない」キャンペーン
失敗するなら、早く失敗しろ
効果測定を考えたキャンペーン設計

第9章 「まさにこれが必要だったんだ!」

「適切なタイミングで、適切なターゲット顧客に、適切な商品を」を実現するデータ分析
解析マーケティングの重要アプローチ1 傾向分析モデル
解析マーケティングの重要アプローチ2 アソシエーション分析
解析マーケティングの重要アプローチ3 決定木分析
タイミングがすべて イベント・ドリブン・マーケティングの事例
解析マーケティングのビジネスケース(稟議のための財務計画)

第10章 データ・ドリブン・マーケティングに必要なITインフラ

本当に必要なデータは何か?
必要なインフラは戸建て住宅の規模か、高層ビルの規模か?
要件の複雑さの度合い
データウェアハウスへ既存のデータベースをそのまま移すべきか、データベースを再構築するべきか?
失敗パターンを予習して失敗を回避しよう
ハラーズ・エンターテインメント社(カジノ)
データ・ドリブン・マーケティング用ITインフラのシステム構成

第11章 マーケティングの予算、テクノロジー、プロセス

「最高レベル」と「良いレベル」を隔てるものは何か
マーケティング・キャンペーン・マネジメント(MCM)  業界の現状
マーケティング・プロセス、テクノロジー、業績との関係についての調査
B2B、B2Cそれぞれにおけるマーケティング投資の内訳 上位企業と下位企業との比較
4つの壁を乗り越えて、成果の出るマーケティング・プロセスを実現する
マーケティング・キャンペーン・マネジメント・プロセスの改善3段階アプローチ
調査からの学び 複雑さをコントロールする
クリエイティブXファクター
すべての要素を統合する

総ページ数:380p

マーケティングは多くがうまく運用されていない

アメリカをけん引する企業でさえ、マーケティングの検証を怠っている、というのが本書を通しての主張の立場に思えます。


・252社の調査の結果、53%の企業はマーケティングの投資収益率、正味現在価値をはじめとする効果測定指標の目標値を設定していない

・57%の企業はマーケティングの予算策定にあたり、稟議のための財務計画を作成していない

・61%の企業は、マーケティング案の明文化されたルールがない

・69%の企業は、テストマーケティング群とコントロール群を分けた対照実験による効果検証を行っていない

・73%の企業は予算化前に設定した獲得目標と実際の結果を照らし合わせるスコアカードを利用していない

出典:P7より抜粋、編集

毎年多くのデータが生まれているので、その膨大なデータ処理に忙殺されてしまうがために、マーケティングの運用がおろそかになってしまう。

その結果、巨額なマーケティング予算が割り当てられているにもかかわらず、その多くが次回に活かされる事なく捨て金になっている。

これを改善するために、データ志向のマーケティング(データ・ドリブン・マーケティング)を展開すべきなので、伝統的な10個のマーケティング指標と、さらに15個の効果的なマーケティング指標を重点的に見ていきましょうね、という内容です。

この書籍から学べる事はとても多い反面、利活用するのは簡単ではありません。

様々な指標の見方は分かっても、そのデータ取得を実現する準備や、分析と検証を続けていく事は読むよりも大変な作業です。

ただその方法論や方向性、その結果を知っているのと知らないのとでは、対策するスピードが大きく違ってきます。

本書から垣間見えるチャンスとは?

本書はマーケティングというよりもPDCAの啓発本に近い印象を受けました。しっかりとデータを取る事も大事だけれども、マーケティングに活用するには、結果をしっかり検証しよう、という事は繰り返し出てきます。

またデータを見るのも大事な反面、そこには一人の顧客がいるからこそ、しっかりCRMを運用しましょう、という意味が込められているように、読んでいて感じられました。

さて、当サイトは経営学を中心とした内容を掲載していますが、中小企業診断士の過去問題集も解説をすすめています。

マーケティング先進国であるアメリカでさえ十分に検証できていない、というデータを先に紹介しましたが、日本はそれよりも劣るであろうという事は誰もが思うところだと思います。

こうしたマーケティング手法をしっかりと取り組める人材の価値というものが、いかに大きいかをこの本は語ってくれていると思います。

データが膨大になっているのは日本も同じことですから、この本に書かれている内容は、そのまま自分の活躍の余地であると見る事も出来ます。

内容が難しい、一度では理解ができない、というレビューは多いですが、簡単ではないからこそ価値があると思い、根気強くマスターしていきたいところです。

一読の価値は十分にあるビジネス書と言えます。

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